簡易宿泊所「Bed & Breakfast RENGA 代官山」開業までの経緯

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個人経営の共同住宅の売却


代官山町の袋小路に建つ、複数の親族世帯が居住し、その他の住戸は賃貸住宅として経営していた地下1階地上3階建ての共同住宅が、不動産管理業を事業の中核とする不動産会社 株式会社アズ・ブリック(中央区銀座5丁目15-18)に売却されました。

株式会社アズ・ブリックは、この取得不動産の資産運用方策として様々な事業形態を検討したそうですが、結果的には、この建物に大規模の模様替をおこない、建物の用途の変更によって、すでに東銀座で事業展開していた簡易宿泊所運営の2番目のプロジェクトとすることを決定しました。

渋谷区では、区内でのラブホテルの建設を規制する条例として「渋谷区ラブホテル建築規制条例」を制定しています。
この条例では、
(計画の公開)
第七条
2 建築主は、当該建築の計画について、当該ホテル等の敷地から周囲二百メートル以内の住民に対し説明会を開催し、その結果を区長に報告しなければならない。
と定められていることから、建設主である株式会社アズ・ブリックは、2018年3月19日(月)に「アズ代官山(簡易宿泊所)に関する説明会」を開催しました。

1F 平面図
2F 平面図
3F 平面図

近隣住民からの反発


時代背景として、「Airbnb(エアービーアンドビー)」が事業的に成功し、広く「民泊」に対する関心が高まっていたのと同時に、渋谷区では渋谷の街をニュヨークのマンハッタンのような世界有数の国際都市にすることを目指しており、2020年の東京オリンピックの開催も利用し、渋谷区内における様々な形態での宿泊ベッド数の拡充を図っていたということがありました。
このような背景から、用途変更される建物の周辺住民は、前面道路が袋小路であるために通行者の通り抜けが無い極めて静かな住宅環境が、多頻度の不特定多数の宿泊客の通行によって静寂で清潔な佇まいが毀損されることを危惧しました。

袋小路
袋小路奥から八幡通りを望む

同時に、2018年3月19日(月)に開催された説明会「(仮称)アズ代官山計画 改修工事 について」では、この説明会が「渋谷区ラブホテル建築規制条例」に基づくものであると説明されたために、一部の住民に対しては「運営される簡易宿泊所はラブホテルとして利用されることになる」という誤解を生じさせることにもなりました。
また、渋谷区の国際都市化の方針から、マナーの悪い(マナーを知らない)外国人が大挙して袋小路を往来することによっても、風紀の乱れや騒音、路上への廃棄物など様々な問題が生じる可能性が浮上し、危機感を募らせることになりました。
さらに、この袋小路は私道であり、埋設されている下水道管の容量が少ないために過去に障害が発生していたこともあり、宿泊施設の営業によってその許容量を超えることが懸念されることからも、宿泊施設の運営は認められないという意見が埋設上下水道管の共同所有者である隣接住民から出されました。

当該建物が所属範囲となる町会「親交会」は、急遽、2018年4月7日(土)に「簡易宿泊施設計画に関する!意見交換会」を開催し、建築主の株式会社アズ・ブリックの代表取締役からの説明を求めました。
この時も近隣住民からは、不特定多数が利用する事業の計画は取り止めて賃貸住宅の経営に切り替えるよう求める意見が多数出されたため、株式会社アズ・ブリックの代表取締役からは「事業認可に向けた行政手続きは、近隣住民からの同意が得られた後に着手する」との約束がされました。

嘆願書の提出


2018年4月23日(月)には3回目となる「アズ代官山(簡易宿泊所)に関する説明会」が開催されました。
この時に、株式会社アズ・ブリックの代表取締役から、簡易宿所営業は賃貸共同住宅事業と比較して3倍程度の収益性が見込めるので、事業の収益性の理由から、前回説明会での「行政手続きは、近隣住民からの同意が得られた後に着手する」との約束は撤回することが発表され、2018年5月中に渋谷区ラブホテル建築規制条例に基づくホテル等建築同意申請書を渋谷区に対して提出し、2018年6月中に渋谷区長からの諮問による渋谷区ホテル等建築審議会の答申が得られれば改修工事に着手すると説明されました。
この発表によって、近隣住民のこの計画に対する反対運動をおこなう意思が固まることとなり、事業者と近隣住民の間の話し合いの調整を図ってきた代官山ステキなまちづくり協議会と親交会は、2018年4月27日に、渋谷区長、渋谷区ホテル等建築審査会、渋谷区危機管理対策部長の3者宛に「アズ代官山(簡易宿泊所)に関する嘆願書」を提出しました。
この嘆願書では、事業主が地域住民に対しておこなった約束を反故にするといった信義則違反があったというだけでなく、事業行為が合法的なものであっても事業がおこなわれる地域環境に相応しくないと地域住民が考える場合にはその事業活動を認可しないことを行政機関に求めています。

2018年4月30日(月)には、近隣住民を中心に「簡易宿泊施設計画に関する!意見交換会第2回」が開催され、今後の対策について検討がおこなわれ、近隣住民組織を結成し、渋谷区宛の意見書の作成や署名運動の実施をおこなうなどの方針が固まりました。
代官山ステキなまちづくり協議会では、複数の渋谷区ホテル等建築審議会委員に相談するなどした結果、渋谷区ホテル等建築審議会の答申は保留の扱いとなり、渋谷区からは株式会社アズ・ブリックに対して近隣住民の同意が得られるような対応をおこなうよう指導がなされたようでした。

事業主と近隣住民との協議


そこで、近隣住民との合意形成を図るため、2018年6月7日(木)には株式会社アズ・ブリックの主催による第4回目の「説明会」が開催されました。
株式会社アズ・ブリックからは宿泊約款(案)が提示され、閑静な住宅地の袋小路という静謐な環境が宿泊客によって乱されることがないようにするための営業上の取り決めが説明されましたが、地域住民で組織された団体「代官山町地区袋小路エリア環境保全実行の会」からは、宿泊客の行動に関わるもの以外の事業運営上の行為についても懸念される事項があるために、株式会社アズ・ブリックと地域住民との間で協定書を締結することが要請されました。

2005年に制定された渋谷区まちづくり条例によって認定されている代官山のわがまちルール「代官山ルール」では、「建築等計画関係者は、建築等の計画に関する意見交換により、協働型のまちづくりの実践を通して、当該地域固有の自然的条件とその空間的特質を生かした生活環境の維持・創造が実現するよう努めるものとする。」と定めていることから、渋谷区まちづくり条例の認定協議会である代官山ステキなまちづくり協議会では、株式会社アズ・ブリックと代官山町地区袋小路エリア環境保全実行の会の間の話し合いを円滑に進めるため双方の間に介在し、協定書締結までのサポートをおこないました。

以後、2018年7月20日(金)に代官山町地区袋小路エリア環境保全実行の会から株式会社アズ・ブリックに対して要望書が提出され、同年8月23日(木)には再度話し合いがおこなわれました。
また、改修工事完了後の2019年1月11日(金)には、代官山町地区袋小路エリア環境保全実行の会および代官山ステキなまちづくり協議会に対して内覧会が実施され、その後2019年4月18日(木)に協定書の細部に亘る調整が終了した結果、2019年8月22日(木)に協定書の締結が完了しました。

Bed & Breakfast RENGA 代官山のその後


Bed & Breakfast RENGA 代官山は2019年1月に営業を開始しましたが、開業に至るまでに地域住民との間で濃密なコミュニケーションを図ってきたことにより、地域住民内における一定の信頼感を醸成する結果となったのと同時に、当該建物を話し合いの場として提供するなど、地域住民の地域活動に対する協力をおこなってきているため、地域住民との間の摩擦はほぼ解消された状態になっているようです。
また、開業後1年間の実態としては、宿泊客の多くは一人旅あるいは少人数グループの日本人女性客や欧米からの観光客であり、危惧されていた宿泊客による迷惑行為もほとんどおこなわれることは無いようです。
さらに、近隣のマンション居住者などにとっては、親戚、知人等の来訪時に利用できる卑近で廉価な宿泊施設の存在が好意的に受け入れられているところもあるようです。

Bed & Breakfast RENGA 代官山では、館内にフリーWiFiを完備し、新たに建物内に喫煙室を設けるなどして、日中のカフェ営業もスタートさせたことから、廉価に利用できるノマドワークのためのスポットとしても利用価値が高まっているようです。

Bed & Breakfast RENGA 代官山

http://www.bb-renga.jp/daikanyama/

B&B RENGA Daikanyama Rental Space

http://rentaloffice-daikanyama.com/

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