シンポジウム「ヒルサイドテラスはなぜ50年たっても古くならないのか」

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ヒルサイドテラスの第1期A・B棟の竣工から50周年、重要文化財の旧朝倉家住宅の完成から100周年を迎えることを記念して、2019年11月9日~12月8日の期間、ヒルサイドテラスでは展覧会「HILLSIDE TERRACE 1969-2019 -アーバンヴィレッジ代官山のすべて-」が開催されます。
そのオープニング・シンポジウムとしてヒルサイドプラザでは「ヒルサイドテラスはなぜ50年たっても古くならないか」が開催されました。

ヒルサイドテラスの設計者である槇文彦さんからは、
建築家にとって建物は、作ったらそれで「さよなら」となってしまうものが多いが、ヒルサイドテラスでは施主と建築家の双方に「この場所を育てる」という意識が強くあった。
そしてそれだけでなく、その意識に賛同する外部の多くの人々の協力も得て旧山手通りの沿道というこの場所が育てられてきた。
そのことによって、珍しいことだけれども、この場所を愛する、関心がある人々のコミュニティー(アーバンヴィレッジ)が生まれてきた。
当初は敷地の用途地域の制限によって、建設できる建物が低いものにならざるを得なかったことがコミュニティーの形成にとっては良いことだったと考えている。
ヒルサイドテラスがユニークなのは、ただ建物が出来ただけでなく、それを核に形成されたコミュニティーから、さらに周辺地域も良くしてゆこうという発言が生まれてきているところである。
それは、オーナーがこの場所に住み続けていることが大きく影響していると考えている。
例えば、周辺の地権者に対して街並みに大きな木を残すよう働きかけるなど、街並みとしての質の高さを生み出す努力がされてきた。それが理解され実現されたことによってUrbanity(洗練されていること)が広がっているということは、建築家として喜ばしいことと感じている。
30年間かけて完成したヒルサイドテラスのプロジェクトでは、個々の建物ごとに敷地の条件が異なっていたのと同時に、時代とともに社会のライフスタイルも変化してきたし、使える素材も変化してきた。
そのため、ヒルサイドテラスが「Homogeneous(同種・同質)な建物の集合体(集落)」ではなく、「Heterogeneous(異種・異質)な建物の集合体(集落)」でありながらも、街並みとしてのUnify(統一感)がある群造形(Group Form)になったのは、表通りから建物に入った人が同じ入口から出てくるのではなく、建物を通り抜けて別の出口から表通りに出ることができる構造にすることを原則にしてきたことに因ると考えている。
そのようなことが実践できたヒルサイドテラスのプロジェクトは興味深いものだった。
といったことが語られました。

記号論的アプローチでヒルサイドテラスを研究されている門内輝行京都大学名誉教授からは、
ヒルサイドテラスでは、「眺望-隠れ処理論(人間は見られないで見ることを好む)」が活かされている。
長い時間をかけて建物が継ぎ足されてきたことによって、お互いが類似しながらも、それぞれに個性が感じられる魅力的な街並みが形成されてきた。それが周辺にも波及することによって、お互いに他を活かしつつ 自らの個性も発揮する「共同体の景観」が生じている。
などの他、多くのポイントが指摘されました。

長年に亘るヒルサイドテラスの住人である北川フラムさんからは、
ヒルサイドテラスは、入居しているテナントにも「育てられている」という意識が芽生えてくる場所になっている。そして、ヒルサイドテラスで暮らす人々が皆知り合いでいられるような、ちょうど良いサイズのコミュニティーが形成できている。
オーナーである朝倉家と設計者である槇文彦さんが「公共的な財産」「社会資本」としての建築物の在り方に対する意識が強く、効率性ではなくコミュニティーを大切にしていることが感じられる。
などと語られました。

「ヒルサイドテラスは50年たってもなぜ古くならないのか」という問いに対する答えとしては、良く計算された建築物としての普遍的な魅力と朝倉家のオーナーシップの発揮によって、多世代に亘る「ヒルサイドテラスが核となって形成された街並みを愛する人々のコミュニティー」が綿々と息づいていることにあると感じさせるシンポジウムでした。

出演:槇文彦、門内輝行、北川フラム、妹島和世+西澤立衛(SANAA)

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