LE COMPTOIR OCCITAN

DISCOVER

LE COMPTOIR OCCITAN(ル・コントワール・オクシタン)はヒルサイドテラスA棟(猿楽町29-18)にある、フランスのラングドック(Languedoc)地方の家庭料理が食べられるビストロです。


1969年に代官山集合住宅計画の第一期であるヒルサイドテラスのA棟とB棟が完成した時、慶應大学仏文科出身で、フランス料理の巨匠ポール・ボキューズとも親交が深かった稲川慶子さんがB棟の地下に、銀座で経営していたフランス料理店「レンガ屋」の支店を出店しました。ここが現在はレストラン・パッション(PACHON)になっているわけですが、現在、A棟のLE COMPTOIR OCCITAN(ル・コントワール・オクシタン)がある場所にはフランス菓子店の「レンガ屋」を同時に出店しました。レストランの「レンガ屋」が閉店した後、1984年に六本木の名店「イル・ド・フランス」のオーナーシェフだったアンドレ・パッション(Andre Pachon)さんがその場所にパッションを開店させますが、ル・コントワール・オクシタンの前身であるLe Bistro Pachon(ビストロ・パッション)がA棟に開店したのは2004年のことで、それまではフランス菓子店の「レンガ屋」は営業していた記憶があります。

フランス菓子店「レンガ屋」
フランス菓子店「レンガ屋」 HILLSIDE TERRACE 1969-2019

ビストロ(Bistro)とは、翻訳すると居酒屋という意味になるそうです。Wikipediaのフランス料理の解説には「いわゆる大衆食堂であり、メニューは黒板にチョークで書かれている事が多く、給仕たちもカジュアルに対応する。庶民的な料理が出され、また地元の特産を活かした郷土料理が提供される事も多い。」と書かれています。ル・コントワール・オクシタンはそういう店です。
カウンターの前のテーブル席の壁面には、手書でメニューが書かれた大きな黒板が掲げられています。

コントワール(Comptoir)というのは、フランス語でカウンターという意味だそうです。

カウンターの横の壁にはたくさんの小ぶりなワイン樽が並んでいます。18種類の「グラス”樽”ワイン」から好みのものを選んで呑むことが出来ます。どれを選んでも値段が変わらないのが嬉しいところで、まさに居酒屋気分に浸ることができるのです。

7月になったので、今日はラタトゥイユをいただくことにしました。「半熟卵とニース風ラタトゥイユ」です。
南仏(コートダジュール)のリゾート地としてよく知られるニース(Nice)もオック語(Occitan)を話す人々の地域「オクシタニア(Occitania)」の一部です。そうです。ル・コントワール・オクシタンでは、オクシタニアの郷土料理が提供されているのです。

店の入り口の脇にはランチメニューの黒板が立てかけてあります。日替わりのメニューも含めて11種類が書かれていましたが、テーブルに配られるメニューでは、もっと多くの選択肢の中から選べるのではないかと思います。近年は、シェフのおまかせだとか、プリフィックスだとかと称してメニューの選択肢が狭い店が増えてきたように感じていますが、テーブルに座ったその時の気分で「今日の一皿」を選ぶことができる貴重なお店です。

摂取カロリー量を減らすことを目指したヌーベル・キュイジーヌの旗手として知られるポール・ボキューズが、日本に招聘されて懐石料理に出会ったことから、ほんの数口分しかない食べ物を見た目良く細工を施して提供することがレストランガイド『ゴー・ミヨー』の仕掛けによって流行り出し、フレンチと云えばそのようなものであるという通念が1970年代から形成されたようですが、その後その流れは「キュイジーヌ・モデルヌ」へと進化し、2002年に英国のウィリアム・リード社(William Reed Business Media)が「世界のベストレストラン50」というランキングをスタートさせてからは、斬新性、先端技術の導入、固定観念を覆す素材の採用、料理人の個性の主張などをフーディー(Foodie)達がもて囃すようになったので、その装飾性への傾倒はフランス料理に留まらずイタリアンや中華にも波及しているように感じます。

もうずいぶんと昔のことですが、一時期、毎年冬のフランスに渡航していたことがあります。その都度いろいろな食事をしていたはずですが、今でも記憶に残っているのは、ロワール地方にある観光バスの団体旅行者が立ち寄るような、なんの変哲もない田舎のレストランの、観光客には提供されることのない地元の客向けのパテ・ド・カンパーニュです。小ぶりの陶器のボウルに詰められたパテをナイフですくってはちぎったバケットに擦り付け、それを口に入れては赤ワインで流し込む。永遠にその繰り返しで充分だと思える至福の時間で、毎年その店に行くことが楽しみでした。
美食家で知られる英文学者の吉田健一さんの著作で1972年に出版された『私の食物誌』には、「旨いことが第一であって、どんな風に見えるかは二の次である」と書かれているそうです。私も同感です。

フランスまで行かなくとも代官山でフランスのビストロと同じような食事が出来る間違いのない店。ル・コントワール・オクシタンは尤もなお店です。今の季節、A棟とB棟の間にある屋外テラスでも食事が出来るそうです。

http://www.pachon.co.jp/jpn/bistro_broche/index.html

ピックアップ記事

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。